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秋野不矩の作品を鑑賞可能な美術館を紹介|代表作品についても解説

秋野不矩(本名:ふく)は、91歳で文化勲章を受章した女流の日本画家です。身の回りの人物やインドをテーマにした作品を多く制作し、昭和期から平成初期にかけて活躍しました。

今回は人気の秋野不矩の作品が観られる個性的な美術館を取り上げるとともに、秋野不矩の略歴や代表作品もあわせて紹介します。



秋野不矩とは

秋野不矩と夫 夫・沢宏靱とともに
出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

秋野不矩は静岡県出身の日本画家で、1908(明治41)年に生まれました。西山翠嶂の下で学びながら官展にて入選を重ねるも、戦後は官展から離れて「創造美術」の結成に参加します。50歳半ばで客員教授としてインドに赴任して以来インドに強く心を惹かれ、その後は何度もインドを訪れつつ、インドをテーマとした作品を次々と生み出しました。

日本画で描かれることの多い花鳥風月ではなく、身の回りの人物やエキゾチックインドの風景などを描いたのが秋野不矩の特徴です。秋野不矩の描く情感たっぷりのみずみずしい日本画に魅了される人は、現在も後を絶ちません。



秋野不矩の作品を鑑賞できる美術館を紹介



秋野不矩の作品を鑑賞できる美術館を、5つピックアップしました。それぞれの美術館で所蔵している作品はもちろん、アクセスや営業時間等も記載したので目的に合わせて利用してみてください。ただし、所蔵作品は常設されているとは限りません。気になる作品があれば美術館の公式HPで確認するのがおすすめです。

また、記載している情報は記事掲載時点のものです。実際に足を運ぶ際には最新の情報を確認してからにするとよいでしょう。



浜松市秋野不矩美術館

浜松市秋野不矩美術館 出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

「浜松市秋野不矩美術館」は、秋野不矩の故郷である浜松市に1998(平成10)年に設立されました。秋野不矩の作品をメインに約330点(うち代表作品の『ガンガー』(1999年)などを含む本画は約90点)をコレクションしています。年に数回開催される特別展では秋野不矩に関連するさまざまな作家も紹介しており、日本画好きなら一度は訪れたいスポットの一つとなっています。

浜松市秋野不矩美術館を語るうえで欠かせないのが、履き物を脱いで鑑賞するユニークな形式の展示室です。正方形または翼廊状になっている1階展示室では、靴を脱ぎリラックスした状態で作品を鑑賞することで秋野不矩の作品から流れ出るエネルギーをより身近に感じ、新たな視点で作品の魅力を発見できることでしょう。

「履き物を脱いで鑑賞する」という大変珍しい形式は、美術館を設計した藤森輝信の「秋野不矩の作品の汚れのなさに土足は似合わない」という考えから実現しました。床に直にすわりゆっくり鑑賞できるのが浜松市秋野不矩美術館の特徴です。興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

住所 〒431-3314 静岡県浜松市天竜区二俣町二俣130
アクセス 【自家用車】
・ 新東名「浜松浜北IC」から約10分
・ 東名「袋井IC」から約30分
・ 東名「浜松西IC」から約50分
・ 新東名「浜松SAスマートIC」から約20分
・ 東名「浜松IC」から約35分
【公共交通機関のご利用】
・ JR東海「掛川駅」または「新所原駅」乗り換え ▶ 天竜浜名湖鉄道「天竜二俣駅」下車 ▶ 徒歩15分
・ JR東海「浜松駅」乗り換え ▶ 遠州鉄道「西鹿島駅」下車 ▶ 遠鉄バス「二俣・山東行」で「秋野不矩美術館入口」(7分)下車 ▶
徒歩10分 または遠州鉄道「西鹿島駅」よりタクシー7分
営業時間 9:30-17:00(入館は閉館の30分前まで)
※月曜日(月曜日が祝日の場合は開館、翌日休館)、年末年始、展示替え・館内保守日等は休館
料金 【所蔵品展】
一般310(240)円、高校生150(120円)、中学生以下・70歳以上無料
【特別展】
各展覧会により異なる
※( )内は20名以上の団体料金
公式HP https://www.akinofuku-museum.jp/



京都市京セラ美術館

京都市京セラ美術館 出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

2020(令和2)年5月26日、「京都市美術館」は「京都市京セラ美術館」としてリニューアルオープンしました。京都市京セラ美術館は1933(昭和8)年に「大礼記念京都美術館」として開館し、その後「京都市美術館」と改称されながらもさまざまな画期的な取り組みを継続して行ってきました。

公立美術館としてもっとも古い建築物である建物を利用しつつ現代的なデザインが加えられた京都市京セラ美術館は、京都市民のみならず京都を訪れる観光客をも魅了する、人気の美術館です。そんな京都市京セラ美術館では秋野不矩の『砂上』(1936年)や『紅裳』(1938年)など初期の作品を多く所蔵しています。

住所 〒606-8344 京都市左京区岡崎園勝寺町124
アクセス 【自家用車】
・名神高速道路京都南ICから市内へ約10km
・名神高速道路京都東ICから市内へ約7km
【公共交通機関】
・地下鉄東西線「東山駅」より徒歩約8分
・京阪「三条駅」、地下鉄東西線「三条京阪駅」より徒歩約16分
・市バス「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
営業時間 10:00-18:00(入場は閉館の30分前まで)
※月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始は休館
料金 【所蔵品展】
一般(京都市内在住)520円、一般(市外在住)730(620)円、
小中高生等(京都市内在住)無料、小中高生等(市外在住)300(200)円
※( )内は20名以上の団体料金
【特別展】
各展覧会により異なる
公式HP https://kyotocity-kyocera.museum/



東京国立近代美術館

東京国立近代美術館 出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

日本で最初の国立美術館である「東京国立近代美術館」は、重要文化財を含む13,000点以上もの作品を所蔵する大型美術館です。19世紀末から現代にかけての日本美術の名品を主としつつ、海外の作品もまじえて幅広く所蔵しているのが特徴です。レストランの「L’ART ET MIKUNI(ラー・エ・ミクニ)」には皇居を望むテラス席も備えており、美術鑑賞に疲れたらこちらで休憩する人も多くいます。

東京国立近代美術館では、秋野不矩が30代半ばで制作した『桃に小禽』(1942年)をコレクションしています。

住所 〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
アクセス ・東京メトロ東西線「竹橋駅」 1b出口より徒歩3分
・東京メトロ東西線・半蔵門線・都営新宿線「九段下駅」4番出口、
 半蔵門線・都営新宿線・三田線「神保町駅」A1出口より各徒歩15分
営業時間 10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00)
※月曜日(祝休日は開館し翌平日休館)、展示替期間、年末年始は休館
料金 【所蔵品展】
一般500(400)円、大学生250(200)円
※( )内は20名以上の団体料金
※5時から割引あり
※高校生以下無料
公式HP https://www.momat.go.jp/



静岡県立美術館

静岡県立美術館 出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

「静岡県立美術館」は「東西の山水・風景画」「富士山の絵画」「ロダンと近代彫刻」「現代の美術」「静岡県ゆかりの作家、作品」の5つを柱として2,700点以上もの所蔵品をコレクションしている美術館です。そろそろ開館40年を迎える静岡県立美術館は、1994(平成6)年に開館した新館「ロダン館」もあわせてさまざまな盛り上がりを見せています。

静岡県立美術館では、浜松市秋野不矩美術館が所蔵しているものよりも前に制作された1979年制作の『ガンガー(ガンジス河)』や、後ほど紹介する『廻廊』(1984年)などを所蔵しています。

住所 〒422-8002 静岡市駿河区谷田53-2
アクセス 【自家用車】
・東名高速道路 静岡IC・清水ICから約25分、日本平久能山スマートICから約15分
・新東名高速道路 新静岡ICから約25分
・静岡駅南口から南幹線経由で約20分
・草薙駅から約5分
【公共交通機関】
・JR東海道線「草薙」駅県大・美術館口から、徒歩約25分またはバス約6分
・静岡鉄道「県立美術館前」駅南口から、徒歩15分またはバス約3分
・バスはいずれも「県立美術館」バス停下車
営業時間 10:00-17:30(展示室への入室は17:00まで)
※月曜日(祝休日は開館し翌平日休館)年末年始、展示替期間は休館
料金 【所蔵品展】
大人300(200)円、大学生以下・70歳以上無料
※ロダン館も見学可
【企画展】
各展覧会により異なる
※所蔵品展・ロダン館も見学可
公式HP https://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/



京都国立近代美術館

京都国立近代美術館 出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

「京都国立近代美術館」は、先ほど紹介した京都市京セラ美術館のすぐ近く、そして平安神宮のそばにある国立美術館です。1963(昭和38)年に「国立近代美術館京都分館」として開館したのち、建築家の建築家の槇文彦を迎えて1973(昭和48)年にリニューアルオープンしました。京都の景観を守るため、平安神宮の大鳥居よりも低い建築物となるよう設計されています。

京都国立美術館では、のちほど紹介する秋野不矩の代表作品『残雪』(1980年)のほか、1983年に制作された『池のほとり』や『土の祈り』も所蔵しています。

住所 〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
アクセス 【自家用車】
・名神高速道路京都南ICから市内へ約10km
・名神高速道路京都東ICから市内へ約7km
【公共交通機関】
・市バス「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
営業時間 10:00-18:00(入館は17:30まで)
※期間展開催中の金曜日は夜間開館あり
※月曜日(祝休日は開館し翌平日休館)、展示替期間、年末年始は休館
料金 一般430(220)円、大学生130(70)円、
高校生、18歳未満、65歳以上無料
※( )内は団体料金 ※夜間割引あり
公式HP https://www.momak.go.jp/



秋野不矩の略歴



ここからは秋野不矩の略歴をざっと紹介します。美術館を訪れるときには、ぜひ作家の略歴を押さえてから足を運んでみてください。なんとなくでも頭に入れておくことで、作品を多角的に楽しみ理解を深められます。

1908(明治41)年、秋野不矩は静岡県の磐田郡二俣町城山(現在の浜松市天竜区二俣町)に生を受けました。神主を務める父親の惣吉と母親のかつの間に6人兄弟の末っ子として生まれた秋野不矩は、二俣尋常高等小学校6年のときに図画教師の鈴木俊平とのかかわりのなかで西洋画に出会います。



1926年:静岡県女子師範学校(後の静岡大学教育学部)を卒業



秋野不矩は、静岡県女子師範学校で美術教師の三沢佐助から指導を受けます。卒業後、1926(昭和元)年に静岡県の磐田郡横山尋常高等小学校へ赴任したものの翌年には退職し、千葉県の日本画家石井林響に内弟子として入門しました。

しかし、しばらくすると石井林響が病に倒れたため、京都画壇の重鎮であった西山翠嶂(にしやますいしょう)の運営する画塾「青甲社(しょうこうしゃ)」に入門します。1937(昭和12年)には京都の女流画家の会「春泥社」の結成に参加しました。

1938(昭和13)年、秋野不矩は第2回新文展に紅の着物をまとう5人の女性を描いた作品『紅裳』を出品し、特選を受賞します。翌年には初めての個展を百貨店の大阪大丸で開催しました。

また、秋野不矩は同じく青甲社に入門していた沢宏靱(さわこうじん)と1932(昭和7)年に結婚し、その翌年から1945(昭和20)年の間にかけて五男一女を設けます。



1948~1951年:「創造美術」を結成した後、 新制作協会日本画部を発足



1948(昭和23)年、「創造美術」が結成されました。創造美術とは、第二次世界大戦後に日本画がおかれた厳しい苦境に立ち向かうために結成された美術団体です。戦意高揚のためにも用いられた日本画は、当時厳しい批判にさらされていました。

この苦境のなかで、東京の画家6人(山本丘人、福田豊四郎、吉岡堅二、橋本明治、加藤栄三、高橋周桑)と京都の画家7人(上村松篁、奥村厚一、向井久万(むかいくま)、広田多津、澤宏靱、菊池隆志、秋野不矩)が新しい日本画の創造を目指して集まりました。こうしてできたのが創造美術です。

その後、創造美術は1951(昭和26)年に新制作派協会と合併し、新制作協会日本画部となります。しかし、1974(昭和49)年に新制作協会日本画部の会員は創画会を創立し、実質的には新制作協会から独立することとなります。



1949~1974年:京都市立美術専門学校助教授に就任後、最終的に同大学の名誉教授へ就任


秋野不矩は1949(昭和24)年に京都市立美術専門学校の助教授に就任します。そして翌年、京都市立美術専門学校を母体として設立された京都市立美術大学(現在の京都市立芸術大学)に就任しました。さらに1966(昭和41)年、秋野不矩は京都市立美術大学の教授となり、1974(昭和49)年には同大学の名誉教授となります。

また、1962(昭和37)年にはインドのシャンチニケータンにあるビスバ・バーラティ大学(現在のタゴール国際大学)に招かれ、秋野不矩は客員教授として1年間滞在しました。インドに魅了された秋野不矩は、以後インドをモチーフとした絵画を多く制作しています。



1985年:自選展を大阪・京都・東京池袋・浜松の4都市で開催



1985(昭和60)年、毎日新聞社の主催で「女流画家インドを描く 秋野不矩自選展」が開催されました。会場となったのは大阪府の大丸梅田店、京都府の大丸京都店、東京都の西武池袋店、静岡県の浜松市美術館です。

その翌年、秋野不矩は第27回毎日芸術賞を受賞しました。また、1991(平成3)年には優れた業績を上げた芸術家として文化功労者に顕彰されます。



1993年:日本芸術大賞を受賞し、4都市で「秋野不矩展」を開催



1993(平成5)年、秋野不矩は財団法人新潮文芸振興会より、第25回日本芸術大賞を受賞します。また、同年「秋野不矩展」が静岡県立美術館、高島屋大阪店、京都市美術館、下関大丸にて開催されました。



1998~1999年:浜松市に秋野不矩美術館が完成し、文化勲章も受章



1998(平成10)年、静岡県に「浜松市秋野不矩美術館」が完成しました。浜松市秋野不矩美術館は、秋野不矩の作品を豊富にコレクションしているほか自然素材をふんだんに使った建築で秋野不矩の世界観を表現する独創的な美術館です。

また、翌年には芸術文化の発展・向上に目覚ましい功績を挙げたとして、文化勲章も授賞しました。

2001(平成13)年、秋野不矩は自宅のアトリエで心不全のためこの世を去りました。没後も2003(平成15)年に兵庫県立美術館等で回顧展「秋野不矩展―創造の軌跡」が開催され、多くのファンが足を運んでいます。

*浜松市秋野不矩美術館 / 秋野不矩について


秋野不矩の代表作品



最後に秋野不矩の日本画のなかでも特に人気のある代表作品を紹介いたします。 先述の美術館で鑑賞できるものばかりです。



インド女性



『インドの女性』は、秋野不矩がビスバ・バーラティ大学の客員教授として赴任した2年後に描かれた作品です。秋野不矩はこの絵について、日曜日の朝に訪ねてきた女子学生ダイアナンダさんの美しさに魅了されて描いたものだと述べています。

作品名 インド女性
作者 秋野不矩
制作年 1964(昭和39)年
技法
サイズ 119.6×51.2cm
所蔵 静岡県立天竜高等学校




ガンガー



『ガンガー』(ガンジス河)は1999(平成11)年に描かれました。この年の2月、秋野不矩は約40日のインド旅行に出かけています。そのときに見た風景なのでしょうか。黄褐色のガンジス川が向こう岸の見えない海のように、悠々と流れる様子が描かれています。同名の作品を1979(昭和54)年にも制作しており、そちらは静岡県立美術館の所蔵です。

作品名 ガンガー
作者 秋野不矩
制作年 1999(平成11)年
技法 紙本着色
サイズ 118.8×233.5cm
所蔵 浜松市秋野不矩美術館

*浜松市秋野不矩美術館 / 作品ギャラリー


残雪


溶けきれずに雪が残っている風景を抒情的に描いた作品です。この作品は「秋野不矩展」(1993年)や「20世紀を生きた日本画の巨匠展―生きることは描くこと―」展(2000年)、没後に開催された「秋野不矩展―創造の軌跡―」(2003年)、「生誕100年記念・秋野不矩展」(2008年)など多くの大規模展覧会に展示されてきた代表作品です。

作品名 残雪
作者 秋野不矩
制作年 1980(昭和55)年
技法 紙本着色
サイズ 149.0×271.0cm
所蔵 京都国立近代美術館

*独立行政法人国立美術館 所蔵作品総合目録検索システム / 秋野不矩 / 残雪


廻廊



秋野不矩は、54歳のときに初めてインドを訪問して以来何度も渡印しています。この作品は、1982(昭和57)年にナンドラル・ボース生誕100年祭に出席するために渡印した2年後に制作されました。強い日差しに照らされた部分が金箔で表現されており、黒い影との対比が印象的です。描かれているのはヴィシュヌプールのテラコッタ寺院にある廻廊です。

作品名 廻廊
作者 秋野不矩
制作年 1984(昭和59)年
技法 紙本金地着色
サイズ 151.3×101.0cm
所蔵 静岡県立美術館

*静岡県立美術館 / コレクション / 秋野不矩≪廻廊≫


秋野不矩の作品を鑑賞できる美術館まとめ



今回は秋野不矩の出身地である静岡県にある浜松市秋野不矩美術館を中心として、全部で5つの個性的な美術館を紹介しました。どれも見どころの多い美術館なので、お住まいの土地からのアクセスのしやすさや、観たい作品などに合わせてぜひ足を運んでみてください。

また、その際には本記事に記載の秋野不矩の略歴を予習していくことをおすすめします。秋野不矩の画家人生を少しでも頭に入れておくことで、作品を何倍も深く楽しめることでしょう。



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