また、南部鉄器で沸かしたお湯には中の鉄分が微量に溶け出すため、手軽に鉄分補給ができるという点も魅力の1つです。今回は、国内のみならず海外からも人気を集める、美しく体にも優しい南部鉄器について解説します。
南部鉄器の良さ・特徴とは
まずは南部鉄器の特徴をふまえて、南部鉄器がどのように優れているのかを紹介します。
岩手県の盛岡市、奥州市で作られている金工品
岩手県北上川
出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
南部鉄器の生産地は岩手県の盛岡市や奥州市です。岩手県では古来、鋳物業が盛んに行われてきました。
原材料である砂鉄や鉄鉱石が豊富に採取されたことや、県中央部を南北に流れる北上川のおかげで船での流通が容易であったことが、岩手県で鋳物業が栄えた要因といえます。
南部鉄器は盛岡市と奥州市でそれぞれに作られていましたが、1959(昭和34)年に名称が統一され「南部鉄器」と呼ばれるようになりました。
さびにくく長持ち・熱が均一に伝わる・保温性に優れているなど機能性も高い
南部鉄器が多くの人から人気を集めるのは、その機能性の高さに由来します。お湯を沸かしたときに赤く濁ったり、表面に油が浮くことを「金気」といいますが、南部鉄器(特に南部鉄瓶や南部釜)は「釜焼き」という金気止め(さび止め)加工が十分にされているため金気が出ません。
また、南部鉄器は厚みがあって保温性が高いのも特徴です。本体により多くの熱を蓄えられるため、中のお湯に熱がムラなく伝わります。表面にほどこされる独特のあられ紋様も、表面積を増やして保温性を高めるための工夫の一つなのです。
ちなみに、南部鉄瓶や南部釜でお湯を沸かすと中に含まれる鉄分(体に吸収されやすい二価鉄)が自然にしみだすので、鉄分補給になります。また、南部鉄瓶や南部釜を長く使っていると水に含まれるカルシウムが内側に付着して、お湯の味をまろやかにします。
代表的な南部鉄器である鉄瓶の表面には職人によって紋様が施されている
南部鉄器といえば、かつて南部藩主が進物にも用いた南部鉄瓶が特に有名です。南部鉄瓶の多くは表面に動物や植物、そして独特のあられ紋様などがほどこされており、このような装飾性の高さも人気の秘密といえるでしょう。
また、紋様に加えて漆で着色された光沢のある黒色も高級感を演出します。ただし、近年においては海外からの人気にこたえてカラフルな急須等も制作されるようになりました。
南部鉄器の歴史
上述の通り南部鉄器には盛岡市で作られたものと奥州市で作られたものがあり、この二つは起源が異なります。盛岡市の南部鉄器の始まりは江戸時代です。南部藩の第三代藩主である南部重直が、京都から小泉仁左衛門清行という釜師を呼び寄せて茶釜を作らせたのが、盛岡市の南部鉄器の始まりでした。その後も盛岡市の南部鉄器は南部藩の庇護を受けて発展しました。こちらの南部鉄器は芸術性の高さが特徴です。
一方で奥州市の南部鉄器の始まりは平安時代後期といわれています。奥州藤原氏の初代当主である藤原清衡(ふじわらのきよひら)が、近江国(現在の滋賀県のあたり)から鋳物師を呼び寄せて武具を作らせたのが始まりです。戦国時代以降は、伊達藩の庇護を受けてその技術を発展させました。奥州市の南部鉄器は、人々の暮らしに寄り添う日用品としての側面が強いのが特徴です。
南部鉄器の種類
一口に南部鉄器と言ってもさまざまな製品が作られています。今回は代表的なものを紹介します。
南部鉄瓶
出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
南部鉄瓶は南部藩お抱えの釜師であった小泉仁左衛門清尊(こいずみにざえもんきよたか)によって考案されました。茶釜を小さくして取っ手をつけたような南部鉄瓶の形は、急須にもよく似ています。しかし、急須とは異なり直に火にかけることができるのが南部鉄瓶の特徴です。
南部鉄瓶は、南部藩の第八代藩主である南部利雄が進物に用いて、外交に役立てたというエピソードで有名です。南部利雄が藩主をつとめた江戸時代中期ごろには、沸かしたお湯で茶葉を煮出す「煎茶」が流行していました。そのため煎茶で使う土瓶の代わりになる南部鉄瓶に注目が集まったのです。
茶釜
南部鉄器の茶釜は「南部釜」と呼ばれ、南部鉄瓶と並んで高く評価されています。そもそも、京都の釜師が南部家の第三代当主に召し抱えられたのが南部鉄器の始まりであったということを思い出してみてください。つまり、南部鉄器は釜から始まったともいえるのです。独特の存在感がある南部鉄器の茶釜は、茶道具として多くの人から愛用されています。
急須
南部鉄器の急須は、南部鉄瓶によくにていますがさび止め加工のされ方が違います。「釜焼き」によってさび止めがされている南部鉄瓶とは異なり、「ホーロー加工(表面にガラス質の釉薬を塗る)がされている急須は、使っていても中から鉄がしみだすことはありません。急須は茶こしとセットで販売されているものが多いのも特徴です。近年、海外でカラフルな急須に注目が集まっています。
風鈴
水沢駅に吊るされている南部鉄器の風鈴
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南部鉄器の風鈴は「南部風鈴」と呼ばれており、独特の高く澄んだ音が出ます。ガラスの風鈴とは一味違うこの音に魅了されるファンも多いでしょう。奥州市の水沢地区で作られる風鈴が有名です。
フライパン・鍋
美術工芸品としての側面の強い盛岡市の南部鉄器とは異なり、古来、奥州市では鍋や釜など人々の暮らしに寄り添う南部鉄器が作られてきました。南部鉄器のフライパンや鍋は表面に凹凸があるため焦げ付きにくく、食材に均一に火を入れるのも得意なので料理がおいしく仕上がります。ただし、すべて手作業で作られている昔ながらの南部鉄器はIH調理器での使用に向かないものもあるので、購入の際にはしっかり確認しましょう。
鉄玉子
鉄玉子は鉄分補給を目的として鍋などに入れる製品で、その多くは玉子のかたちをしています。鉄玉子を一緒に漬けることでナスの漬物の色を鮮やかにしたり、一緒に煮ることで黒豆煮の発色をよくしたりもできます。
南部鉄器の価値・買取相場
南部鉄器の買取相場は状態や業者によって異なりますが、ここでは一般的な相場を紹介します。基本的には古くて状態がよく、美術的側面の強いものに高値が付きやすいでしょう。反対に新しいものには高値が付きにくい傾向にあります。
日の丸形鉄瓶
日の丸形鉄瓶は、岩手県盛岡市南大通りにある鈴木盛久工房で作られる鉄瓶です。南部鉄器の技術の継承者である鈴木盛久は鋳物師として代々盛岡藩に仕えてきました。1896(明治29)年生まれの十三代鈴木盛久は、国内外の数々の展覧会で特選、金賞、グランプリを受賞したため、その功績が認められ人間国宝にも認定されています。
そんな鈴木盛久の作る日の丸形鉄瓶は南部鉄器のなかでも大変貴重です。日の丸形鉄瓶は、大体数千円から数万円程度が買取相場となっています。
及源鋳造
及源鋳造(OIGEN)は岩手県奥州市の水沢地区にある会社です。及源鋳造で作られる南部鉄器には鉄鍋、鉄瓶、鉄急須などがあり、これらはいずれも昔ながらの製法で制作されています。及源鋳造の製品は、数千円程度で買取されることが多いでしょう。
岩鋳
岩鋳は盛岡市で南部鉄器を製造販売している会社です。鉄鍋、鉄瓶、鉄急須などのほかに香炉や風鈴などの小物も人気を集めています。岩鋳も伝統的な製法で南部鉄器を制作しており、こちらの製品も大体数千円程度が買取相場となります。
南部鉄器などの骨董品・美術品買取は業者によって大きく価値・買取価格が分かれる
南部鉄器のような骨董品や美術品は、取り扱う業者によって買取価格が大きく変わってきます。相場よりも低い金額で買い取ろうとする悪徳な業者から身を守るためには、豊富な資金力を持ちプロの鑑定士のいる業者を選ぶことが大切です。業者のホームページをしっかりチェックしておきましょう。複数の業者で見積もりを取って比較するのも大変おすすめです。
また、クーリングオフに適切に対応してくれるかも重要なポイントでしょう。その業者の評判や口コミについても調べておくと安心です。
南部鉄器の素材
銑鉄(せんてつ) | 鉄鉱石を溶かして作られた鋳物の原材料となる鉄。昔は山砂鉄が使われたが、現在は代わりに銑鉄が使われる |
川砂、粘土 | 鋳型(鉄を流し込むための型)をつくるときに使われる |
埴汁(にじる) | 粘土を水に溶かした汁。鋳型をつくるときの粘結剤となる |
木炭 | 溶鉱炉で鉄を溶かしたり鋳型を乾燥させたりするときの燃料として使われるほか、鉄瓶を着色するときにも使われる |
漆 | 熱や酸に強い漆は、鉄器の表面を黒く着色するために使われる |
おはぐろ | 酢酸液に鉄くずを加えてできる酢酸鉄溶液。漆の上から塗ることで、漆を定着させ光沢を作る |
南部鉄器の制作に使用される道具
木型 | 鋳型の形をつくるとき、実型の中心に入れて回転させることで形づくる。昔は木製だったが現在は変形しにくい鉄板でつくられるのが一般的 |
実型(さねがた) | 砂や粘土で作られ上下にわかれた型。これを内側から挽いていくことで鋳型ができる |
鋳型 | 溶けた鉄を流し込んで、鋳物を形づくる。上下にわかれており上の部分を胴型、下の部分を底型(尻型)という |
中子(なかご) | 空洞のある鋳物をつくるとき、鋳型にはめ込んで使う |
くご刷け | くご(古来岩手に群生する植物)を束ねて作られた刷け。漆やおはぐろを塗るときに使われる |
タガネ、ヤスリ | 木型(鉄板)を作るときに使われる |
ヘラ | 鋳型の内側に線を刻み入れ、絵柄を描くために使われる |
あられ棒 | 真鍮でできた先の尖った棒。製品の表面に独特のあられ紋様をつけるためにに使われる |
南部鉄器の制作工程
上述の素材や道具がどのように使われるのか、南部鉄瓶を例にとって制作工程を簡単に説明します。
・南部鉄器のデザインを決め、図面を制作
・図面にあわせて木型を制作
・実型(砂や粘土などで作られ上下にわかれた型)を準備
・木型を回転させて実型の内側を挽き、鋳型を作る
・鋳型が乾かないうちにヘラやあられ棒で紋様を描く
・鋳型を乾燥させ炭火で焼く
・鋳型の中に空間を作るための中子を組み込み、さらに銑鉄を流し込む
・鋳型から鉄瓶を取り出し、中子を取り除く
・鉄瓶を炭火で蒸し焼きにして酸化被膜をつける
(「釜焼き」と呼ばれるさび止め加工)
・ヤスリなどで鉄瓶の細かい部分を整える
・鉄瓶に漆を塗った後、その上からおはぐろを塗る
・鉉(持ち手)を取り付けて完成
南部鉄器を高く買い取ってもらう方法
出典元:ウィキメディア・コモンズ(Wikimedia Commons)
次に、お手持ちの南部鉄器を高値で買い取ってもらうために、自宅でできる取り組みをいくつかご紹介いたします。
購入時の箱や証明書などを保管しておく
どこのメーカーで作ったものか、または誰が作ったものか、わかるようにしておきましょう。製品の側面や底面などに刻印がある場合が多いのですが、あわせて購入時の箱や証明書なども取っておきます。製品情報が書かれているものはきちんと保管しておきましょう。
汚れを極力自分で落としておく
南部鉄器はさび汚れがあると価値が下がるので、普段から使用後にはきちんと乾燥させるように心がけましょう。キズ、ひび割れ、欠けなどが生じないように丁寧に扱うことも大切です。お湯を沸かし本体を温めてから固く絞った布で拭くと、表面の汚れが取れて独特のツヤが出ます。
セットのものは揃えて買取依頼する
ご自宅にお持ちの南部鉄器を買取に出すときには、いくつかまとめて依頼するのがよいでしょう。これは南部鉄器に限らず、美術品や骨董品を査定してもらうときにおすすめの方法です。1点のみでは安くなってしまうような場合でも、セットで査定に出したり同じジャンルのものを集めて査定に出したりすることで、高く買い取ってもらえることがあります。
南部鉄器の特徴まとめ
南部鉄器は自然豊かな岩手県で作られる、歴史ある伝統工芸品です。丈夫で保存性に優れていることや芸術性の高さなどから、日本のみならず海外からも高く評価されています。特に小泉仁左衛門や鈴木盛久といった伝統的な製法で制作している有名な釜師の作品は、高額で取引されることも多いでしょう。その他の製品もポイントを押さえることで高額買取につながりやすくなります。南部鉄器を買取に出す場合には、業者の質を見極め、製品のコンディションを整えておくことが大切です。
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