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加山又造の代表作品を3作品紹介|日本美術を用いた装飾的な代表作や買取相場を解説

加山又造は戦後の日本画壇を牽引した日本画家です。日本画に新しい風を吹かせるべく、国内外のさまざまな絵画を学び、それを独特の感性で取り入れて多くの傑作を生みだしました。

ときには「現代の琳派」と呼ばれる装飾性の高い作品に取り組み、ときには噴霧器やエアブラシなどを導入した水墨画に取り組み、作風を大きく変えながら新しい時代の日本画を模索した加山又造の代表的な作品を紹介します。



加山又造の代表作品を解説


加山又造はおおよそ10年弱のスパンで大きく作風を変化させました。そんな加山又造の人気の代表作品を3つ取り上げて解説します。



春秋波濤


加山又造_春秋波濤の壁画 大鰐温泉の旅館「星野リゾート 界 津軽」のロビーにある『春秋波濤』の壁画
出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
1960年代、加山又造は草花や山水などを扱った琳派風の華やかな屏風絵をいくつか制作しました。1966年に制作された『春秋波濤』はそのひとつで、加山又造の代表作品でもある大作です。

桜と紅葉が同時に見られる山々の間を、月よりも高くしぶきをあげる波がダイナミックにうねっています。現実とは思えぬほどの美しい光景を、加山又造独特の感性で装飾的(写実的に描くのではなくデザイン性を重視すること)に描いた作品です。




加山又造_猫 猫(1990年)

愛猫家としても知られる加山又造は、猫を描いた作品を多く描いています。なかでも1980(昭和55)年に描かれた『猫』は、見つめ合う猫とカマキリを描いたかわいらしい作品です。

猫を描いた作品には、他にも牡丹や蒲公英と一緒に描いた作品などがあり、人気を集めています。これらの作品には、小さな命を慈しむ加山又造の心があらわれているといえるでしょう。



墨龍



加山又造は1970年代末から水墨画を制作し始めました。その代表作のひとつが1984(昭和59)年に完成した『墨龍』です。この作品は日蓮宗の総本山である身延山久遠寺(山梨県)の本堂に描かれた天井画です。

『墨龍』は、11m四方の天井に約1年をかけて、金箔と水墨で描かれました。鱗までリアルに描かれた黄金色の龍が、まるで生きているかのように暗闇におどり出して見える非常に迫力のある作品です。

加山又造の水墨画としては、1997(平成9)年に京都天龍寺法堂の天井画として描かれた『雲龍』も広く知られています。



加山又造の略歴



それでは、加山又造の歩みを追いながら作風の変化を合わせて紹介します。



1927年:京都府で生まれる


清水寺 加山又造が生まれた京都府京都市にある清水寺
出典元:ウィキメディア・コモンズ

加山又造は1927(昭和2)年、京都府京都市に生まれました。父が西陣織の図案師、祖父が円山・四条派の日本画家だった加山又造は、幼い頃身体が弱かったこともあり、父の工房に入り浸って絵を描いて過ごすことがよくありました。

加山又造は、1940(昭和15)年に京都市立美術工芸学校絵画科、1944(昭和19)年に東京美術学校(現在の東京藝術大学)日本画科に進学し、終戦間際の1945(昭和20)年には学徒動員を受けて過ごします。終戦後に父親が病死したため、加山又造は働きながら絵を学び続けました。



1949年:東京美術学校を卒業



1949(昭和24)年、加山又造は苦学の末に東京美術学校を卒業しました。卒業後は山本丘人(やまもときゅうじん)に師事し、師が仲間とともに結成した「創造美術」に所属します。

終戦後のこの頃は、新しい価値観が流入したことで伝統的な文化が否定された時期でした。さらに、戦意高揚のために利用されたこともある日本画は厳しい批判にもさらされます。そんな状況のなかで新しい日本画を模索するために結成されたのが、山本丘人、上村松篁(うえむらしょうこう)、秋野不矩(あきのふく)らが率いた「創造美術」です。

加山又造は山本丘人のもとで、新しい時代の日本画を担う存在として画家人生をスタートさせました。当時日本画に足りないといわれていたものを、加山又造は幅広い時代の西洋絵画のなかに探し、得たものを自らの芸術の中に落とし込みました。この頃には、動物を題材に孤独感、不安感を表現する作品を制作しています。



1960年:琳派や大和絵に影響を受ける



少し前から大画面の作品に挑戦し始めていた加山又造は、1960(昭和35)年以降、琳派や大和絵からの影響が見られる大作を制作します。特に特に『春秋波濤』(1966年)や『千羽鶴』(1970年)などは、その装飾性の高い華やかな画面構成から「現代の琳派」と称されるほどで、おおいに注目を集めました。

加山又造は、1970(昭和45)年頃から線描の美しさが際立つ透明感ある裸婦像も多く制作します。さらに、1973(昭和48)年には新潮文芸振興会が主催する日本芸術大賞を受賞しました。



1980年:「月光波濤」で芸術選奨文部大臣賞



1970年代末から加山又造は水墨画にも目を向けます。日本や中国の古典をふまえつつ、そこに現代的な感性と美意識を落とし込み、ときにはエアガン、バイブレーター噴霧器などの現代的な機器も用いながら自らの芸術を追求しました。1979(昭和54)年に第6回創画会に出品し、1980(昭和55)年に第30回芸術選奨文部大臣賞を受賞した『月光波濤』は特に有名です。

その後も加山又造は精力的に作品制作を続け、1997(平成9)年に文化功労者に選ばれ、2003年には文化勲章を受章します。1966(昭和41)年から1973(昭和48)年、そして1977(昭和52)年から1988(昭和63)年までは多摩美術大学の教授を、1988年から1995(平成7)年までは東京藝術大学の教授を務め、それ以後は東京藝術大学の名誉教授となって後進の育成にも寄与しました。

2004(平成16)年、加山又造は肺炎のために76歳でこの世を去りました。



加山又造の作品の世界観


加山又造_鶴 鶴(1977年)

加山又造は、日本画が苦境に立たされた戦後において、新しい日本画を模索し続けたアーティストです。動物、琳派風の花鳥風月、裸婦、水墨画といったかたちでおおよそ10年弱のスパンで作風を変えながら自らの芸術を高めていきました。

ブリューゲルやピカソなど幅広い時代の西洋美術、琳派や大和絵などの日本の伝統美術、中国や日本の古典的な水墨画などの技術を貪欲に取り込んだ加山又造は、それらのテクニックに独自の解釈を加え、ついには自分のものとして昇華しました。そこには謙虚でひたむきであったといわれる加山又造の性格があらわれているといえるでしょう。

加山又造は「現代の琳派」ともいわれることもあり、日本の季節や自然を装飾的に描いた、琳派風の作品が特に有名です。加山又造の作品は、従来の日本画とは異なりデザイン面やコンセプト面で鑑賞者に考えることを求めてくるため、日本画でありながら現代アートに通じる部分も持っています。



東京国立近代美術館で加山又造の作品「春秋波濤」の鑑賞が可能

東京国立近代美術館 出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
19世紀末から現代にかけての国内外の名品をコレクションしている「東京国立近代美術館」では、加山又造の代表作品『春秋波濤』を含め、さまざまな作品を観賞できます。

東京国立近代美術館では、『春秋波濤』とともに「現代の琳派」という呼び名のもととなった『千羽鶴』という屏風絵や、『雪』『月』『花』といった琳派風の作品、透明感あふれる裸婦のシリーズも多く所蔵しています。加山又造の作品にじっくりと向き合ってみたい方はぜひ足を運んでみてください。

東京国立近代美術館の公式HPはこちら


加山又造の作品の買取相場



加山又造は次々に作風を変えながら芸術活動を行ったため、時期や取り扱っているモチーフによって買い取り価格が異なります。また、使われている素材によっても買取相場が変わります。

日本画(墨や岩絵具などで書かれたもの)は「版画の原画」や、版画になってもおかしくないような構図のものが人気で、評価が高いでしょう。日本画の場合は加山又造の長男で陶芸家の加山哲也氏から鑑定を受ける必要がありますが、査定後に鑑定書を取得することも可能です。

裸婦をモチーフとした水彩やデッサンは、数十万円前後が買取価格となります。カラスや猫を扱った描き込みの豊かなデッサンや水彩に関しては、100万円以上の買取も可能です。

リトグラフや銅版画などの版画については、鹿、狼、猫(木版)などの動物や玉虫などの昆虫を描いたものが人気で数十万円台の買取価格となります。風景や静物を描いた作品は数万円から30万円程度になることが多いでしょう。裸婦を描いた作品は1~3万円での買取が多いのですが、レースをまとった裸婦や人魚は10万円以上となる場合もあります。



加山又造に関する豆知識(トリビア)



最後に、加山又造に関する豆知識を二つ紹介します。



2018年に現代アーティストによる「Re 又造 MATAZO KAYAMA」展が開催


2018(平成30)年の4月11日から5月5日にかけて、現代アーティストたちによる「Re 又造 MATAZO KAYAMA」展が東京のEBiS303 イベントホールで開催されました。

この展覧会では、女優の宮城夏鈴の肌に特殊メイクアップアーティストのJIROがレースの模様を描いて『黒い薔薇の裸婦』を再現した写真作品や、2016(平成28)年5月開催のG7伊勢志摩サミットで展示された巨大陶板作品『おぼろ』、代表作『墨龍』を会場の天井に再現したものなどが展示され、大きな話題となりました。



加山又造の孫娘は加山由起氏



加山由紀氏は、加山又造の孫にあたる女性です。有限会社加山を設立して加山又造の展覧会や企業とのコラボ作品の開発などを行っていることで知られています。

加山又造の長男で陶芸家の加山哲也氏を父に持ち、母は一時加山又造のモデルを務めていたことがあるという加山由紀氏は、本人は否定していますがかつて加山又造の隠し子であるという噂が立ったこともありました。



加山又造の代表作品まとめ



加山又造は国内外のさまざまな絵画から深く学び、それを自らの日本画に落とし込むことによって、新しい時代の日本画にふさわしい魅力的な作品を次々と生み出しました。なかでも「現代の琳派」という呼び名のもととなった『春秋波濤』や身延山久遠寺の天井画『墨龍』、愛らしい猫を描いた作品群は、いまも多くのファンから愛される人気の高い作品です。

東京国立近代美術館では、加山又造の代表作品『春秋波濤』や『千羽鶴』に加えてさまざまな絵画を所蔵しています。興味のある方は、ぜひ東京国立近代美術館を訪れてみてください。



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