はじめに
東京の美術品買取専門店 獏です。突然ですが、絵画や美術品の買取を行っていると、お客様より『芸大出身ですか?』とよく聞かれます。
絵画・美術品は非常に奥が深いため、学問として専門的に学んでいないと良し悪しを判断できないと思われているようです。私自身は芸術系の大学ではなく、普通の文系学部卒業のためお客様に『違いますよ』と答えると、ビックリされる方もいます。
確かにその通り美術品は奥が深く、私自身もこの世界に入った時は知識や審美眼を養うのに大変苦労しました。業界の先輩や多くのコレクターの方から様々な知識を得て、10年以上経験を積んだ現在でも日々勉強です。
少し話が逸れましたが、絵画・美術品の買取業者で働いている方々は、私の知る限り、芸術大学を卒業した方は非常に少ない印象です。一方、「コマーシャルギャラリー」などの販売に特化したところには、芸大出身の方もいらっしゃるようです。
芸大出身かどうかの質問を頻繁に受けるため、なぜ少ないかをブログにまとめてみました。
あくまでも私の持論ですので思い違いもあるかもしれませんが、参考程度にご一読いただけますと幸いです。
美術品の[販売]と[買取]では、性質が若干異なる
同じ作品を扱うとしても、[販売]と[買取]とでは取引時に必要な知識が若干異なります。[販売]をする際も[買取]をする際も、それぞれの【金額の妥当性】を説明するための知識が必要です。具体的には、販売時は作品の販売金額、買取時は買取金額です。
どちらでも作家の略歴や美術史を知っていることは大前提ですが、他に何が異なるのか、もう少し具体的な違いを見ていきましょう。
~販売時に必要な知識:【作品の制作過程】~
世界には多種多様なアーティストが存在し、様々な種類の作品が様々な金額で販売されています。聞いたことが無いような作家の作品がとんでもない金額で売っているなんて事もよくあります。逆に、知名度が高いはずの作家作品が、意外と安価な価格で売っていることもあります。一般的に知名度と販売価格とは比例するケースが多いですが、そうでないケースも数多くあります。そのため作品を販売するためには、既存の知名度以外に、[作品について語ることの出来る能力]が重要だと思います。
知名度以外に語ることと言えば、美術史に於けるその作品の立ち位置やマーケットでの評価なども勿論ありますが、作品の成り立ちや制作方法も魅力のひとつではないでしょうか。
作品の制作過程を語る上で、芸大出身の方のように実際に作品制作を経験していることは大きなアドバンテージになります。
そのような理由から、「コマーシャルギャラリー」をはじめとする販売の場では、芸大出身の方を多く採用しているのではないかと推測します。
~買取時に必要な知識:【マーケットにおける作家の立ち位置】~
絵画・美術作品を買取する際も、作家や作品に関する豊富な知識は必要です。中でも特に買取時に求められる能力は、作家を正しく迅速に特定し、作品を評価して、市場ではどのような評価をされているかを冷静に判断する力です。
先にご説明したように、知名度と市場価値が比例する作家もいれば、まったく関係ない作家もいます。
また、途方に暮れるような長い制作時間であったり、難しい技術を駆使して作られている作品であっても、市場で評価されていない作家の場合はドラスティックに判断しなくてはなりません。
骨董や工芸のように技術力の高さと市場評価の関連性が高いジャンルは別として、作家が評価の第一基準となる近代の作品は冷静に評価しなくてはなりません。
芸大出身の方のように、作り手の苦労を知っている人ほど、このような冷静な判断が出来ないのではないかと思います。
場合によっては尊敬している先生や師匠の作品に対して、非常に厳しい価格帯での買取をしなくてはならないケースもあるでしょう。
まとめ
買取時、新しい作品を生み出す苦悩などを全く考慮していないわけではありませんが、作家や作品に感情移入してしまうと冷静な判断が出来なくなります。そのため作家に近い経験を積んだ芸大出身の方は、買取ではなく販売に携わることを選ぶのではないでしょうか。(※デザイン関係の仕事やまったく別の仕事に従事する方も多いそうですが・・・)
完全に独断と偏見ですが、絵画・美術品の買取をする人に芸大出身の方が少ない理由を考察してみました。
美術を学問として学んでいなくても、多くの買取業者はしっかりと勉強して正確でご満足いただけるような買取金額のご提案を可能にしていると思います。当店もお客様にご満足いただける買取が出来るよう日々精進しておりますので、何かございましたらお気軽にお問い合わせ下さい。