はじめに
東京の美術品買取専門店 獏です。突然ですが、【山口 歴(やまぐち めぐる)】という作家をご存知でしょうか?
お恥ずかしながら、私自身は半年程前に知ったばかりです。美術雑誌などではなく、現代美術オークションで出品された彼の作品を見たことがきっかけでした。彼は現在30代半ばであり、まだ若い作家と言えるでしょう。
私は絵画・美術品の買取を専門に行っていますが、新進気鋭の若手~中堅作家作品を取り扱う機会は少なく、取扱いの殆どは物故(既に亡くなった人)や巨匠と呼ばれる評価が定まっている方の作品です。
新進気鋭の方の作品を取り扱う機会が少ないのは、若手~中堅作家の作品を手放す方が少ない、別の言い方をすると、オープンにされたマーケットに出品されることが少ないからです。
ただ、近年はコレクター同士が直接やり取りできるSNSが発展し、インターネットオークション・フリマサイトが整備されたことにより、情報を見つけやすくなっています。
そのような変化により山口氏のことも知ることができ、興味を持っていたところ、丁度「西武百貨店渋谷店」で展覧会が開催されていましたので訪問してみました。
山口 歴とは?
1984年 東京都渋谷区出身。2007年 23歳で渡米し、現在はNY州ブルックリンに在住。伝統的な筆跡/ブラッシュ・ストローク(勢いのある筆の動き)をカット/コラージュし、キャンパスという枠組みを超えた形で、現代的な作品を創り上げています。絵の具を贅沢なほどダイナミックに使用しているため重厚感があり、筆の動き・色 共にクールな作品です。
そのクールさ・独創性故に、ナイキ、アウディ、イッセイミヤケ メン、ユニクロなどともコラボレーションしており、幅広い分野で評価されていると言えるでしょう。
国内初の大型展覧会 in 西武百貨店
山口 歴の国内初大型展覧会の場所として、「西武百貨店」が選ばれました。彼の作品をご紹介する前に、まず西武百貨店について少しご紹介させてください。なぜ、この場所で開催されたかがおわかりいただけるかと思います。
~西武百貨店について~
西武百貨店は【戦後美術】(第二次世界大戦後に巻き起こった芸術運動)を日本国内でいち早く扱った、現代美術取り扱いの先駆けとなるお店でした。1975年 百貨店の第9期増築が完了した最上階に、「西武美術館」が作られました。1989年にはSMA館への移転に伴い「セゾン美術館」と改称されます。
美術館として独立した建物にするのではなく本店の建物(現在の別館)の中に入っていましたが、2フロアを使用し他の一般的な百貨店より広いスペースを取っていました。また、レイアウト的にも極めて自由の利く構造だったようで、壁の移動のみならず、入り口を1階と2階のいずれにすることもできた上に、1階と2階を完全に仕切って別々の企画を行うこともできました。
セゾン美術館は惜しくも1999年に閉館しています。
特筆すべき点は、企画の対象が他の百貨店系の美術館(美術スペース)とは異なり、20世紀の内外の美術(主として前衛的なもの)に特化したことと、国立の近代美術館レベルの企画を数多く行ったことでしょう。
そのような背景から、山口 歴の個展が西武百貨店で開催されたには、大きな意味があったのかもしれません。
山口 歴個展『HIGHER SELF』
西武百貨店がどのような場所かもおわかりいただけたところで、やっと山口氏の個展内容についてレポートさせていただきたいと思います。彼の作品を生で見たのは初めてでしたが、絵画の枠を超えたオブジェの様な作品が約20点並ぶ姿は爽快でした。個人的には青色を多く使った作品が好みです。
中央には山口氏がコラボレーションした商品が並んでいました。具体的にはOAKLEYのアイウェア(サングラス)やイッセイ ミヤケ・ユニクロのTシャツなどです。
展示スペースではショートムービーも流されており、山口氏の哲学や作品の制作過程を見ることが出来、作品への理解が深まりました。
作品について言葉で述べるのは難しい為、撮ってきた画像を載せます。(撮影OKでした)
ただ、勿論現物の方が迫力も感動も段違いなので、是非足を運んでいただきたいです。
~おまけ:展示会のタイトル“HIGHER SELF”とは?~
展示会のタイトルであるHIGHER SELFとは? この言葉、初めて耳にする方が多いのではないでしょうか。私も初めて聞いた言葉だったため、調べてみました。直訳すると、「より高い次元の自己」という意味だそうです。
「高次元にいるもう一人の自分」という読み取り方も出来そうです。
高次元にいる理想の自分に成りたいのか、自分自身を俯瞰的に見て自己を表現しているのか、タイトルの意味合いを考えるのも楽しいですね。
まとめ
国際的に注目されている現代アーティストの展覧会は、国内で開催される機会が少なく、海外が主戦場となることが殆どです。草間彌生、村上隆、奈良美智のように既に国内での評価が確立されている作家は日本国内での大規模展覧会も開催されますが、もっと若い作家は海外優先で作品を発表する事が多い印象です。
山口 歴の展覧会は2020年7月17日~2020年8月10日までと短い期間ですが、是非足を運んでいただきたいです。これから更に人気が高まるであろう一級品の作品を、無料で鑑賞出来る機会は稀だと思います。