はじめに
こんにちは、東京の美術品買取専門店 獏です。パナソニック汐留美術館へ『和巧絶佳(わこうぜっか)展』を見に行ってきました。※公式HPはコチラ
この展覧会は『和』『巧』『絶佳』それぞれをテーマとした3章で構成されていました。(最後にパナソニックが保有している【ルオー】の油彩作品も展示されており、同じ入場券で鑑賞することが出来ました。)開催予定期間は2020年7月18日~9月22日、約2カ月間です。
作家は全員現在も活躍しており、作品はどれも日本の伝統工芸に親和性が高いものでした。大満足な内容でしたので是非皆さまにもお伝えしたく、個人的に印象に残った作家を章ごとに紹介させていただきます。
第1章 テーマ:『和』
・館鼻則孝(タテハナ ノリタカ)・桑田卓郎(クワタ タクロウ)
・深堀隆介(フカホリ リュウスケ) の3作家で構成されていました。
花魁から着想を得たHeel-less Shoes(ヒールが無い厚底靴のイメージ)で有名な館鼻則孝の作品や、ポップな色合いと大胆な造形が印象的な桑田卓郎の作品も素晴らしかったのですが、個人的に最も印象に残った作家は【深堀隆介】です。
彼のモチーフは金魚です。彼が「美術なんてやめてしまおう」と思った時にふと金魚に目がとまり、美しさ・妖しさに魅了されてしまって以来、取りつかれたように金魚を描いている、と説明に書かれていました。
特に気に入ったのは升の中を泳ぐ金魚を表現した作品です。「アクリル樹脂を流し込んで、絵を描く」という工程を20回程繰り返すことにより出来上がったその作品は、本物の金魚と見間違う程の完成度でした。糞の様なモノもしっかりと描かれており、ここまでリアルにこだわるのかとビックリしました。
第2章 テーマ:『巧』
・池田晃将(イケダ テルマサ)・見附正康(ミツケ マサヤス)
・山本茜 (ヤマモト アカネ)
・高橋賢悟(タカハシ ケンゴ) の4作家で構成されていました。
ここで紹介された作家は超絶技巧という言葉に相応しい精密な作品ばかりでした。その中で最も私の目を引き付けたのは、【池田晃将】の作品です。
照明を落としたエリアに展示された立体物は、サイズは大きくないながら圧倒的なパワーを放っていました。蒔絵や螺鈿(らでん)など使っている技法は伝統的なのですが、作品は非常に新しいモノであるように感じました。黒い下地に螺鈿特有の虹色で数字が浮かび上がっている作品は、光の当たる角度を変えるとまた違う色合いを見せてくれました。
美術館に飾られている作品はサイズが大きいものが多い印象であり、その大きさのインパクトで迫力や感動を与えてくれますが、池田晃将の作品はそういった概念を良い意味で壊してくれたように感じます。
第3章 テーマ:『絶佳』
・新里明士(ニイサト アキオ)・坂井直樹(サカイ ナオキ)
・安達大悟(アダチ ダイゴ)
・橋本線毅(ハシモト チタカ)
・佐合道子(サゴ ミチコ) の5作家で構成されていました。
個人的に漆を使った作品が好みであるため、ここでは【橋本千毅】の作品をご紹介します。
古典的な表現様式をベースに蒔絵や螺鈿で装飾された作品はシンプルに美しく、長い時間をかけて作られた背景を容易に想像できます。シンプルな中にも作家の個性を感じ取ることが出来ました。作品を見る時に、制作過程の知識があればもっと違う視点でも楽しめるのではないかと感じ、学んでみたいと思いました。
勿論他の作家も素晴らしく、立体作品の可能性を教えていただきました。
まとめ
美術館の展覧会は世界的な作家(モネやカラヴァッジョなど)をメインに開催される事が多いと思います。その多くは既に亡くなっている作家です。一方、今回の展覧会は全作家が現存しておりこれからの活躍が大いに期待できる作家ばかりでしたので、普段の美術館鑑賞時よりもワクワクさせてもらいました。同じ時代を生きる作家を目にして、自身も美術業界の人間として更に精進しなければならないと感じました。入場料は一般の方で1,000円と、他の企画展と比べるとリーズナブルです。また アクセスも良好で、汐留駅直結、新橋駅からも歩ける距離にあります。
ルオーの油絵を除き写真撮影が可能で、記憶にも記録にも残る展覧会になるのではないかと思います。お薦めの展覧会です。
(コロナウイルス感染拡大が進んでおりますので、訪問される際は事前にHP等で営業状況をご確認ください。)