はじめに
近年、美術業界における日本人作家の活躍は大変目覚ましいものです。過去にも、1900年代前半 エコール・ド・パリの一員として注目を浴びた藤田嗣治や、アメリカで活動した国吉康雄、第二次世界大戦後に注目された具体美術協会(吉原治良、白髪一雄など)など、世界で注目を浴びた日本人画家は多数存在しましたが、個人的には今ほど多くの日本人作家が活躍している時代は無かったと思います。
現代アート作家の作品は物故作家(既に亡くなった作家)の作品とは若干評価方法が異なります。今回は絵画の買取を専門に行っている立場から、『現代アートの買取』について紹介させていただきます。
そもそも現代アートとは?
英語で言うと“Contemporary Art(コンテンポラリーアート)”。日本語に訳すと現代美術(アート)です。【現代アート】は人によって解釈が異なる、非常に曖昧な言葉です。広義では[20世紀美術全般 もしくは第2次世界大戦後に活躍した作家]のアートを指し、狭義では現在も第一線で活動している[現存作家]のアートを指したりします。絵画作品を扱う業者間では、主に[第二次世界大戦後に活躍し、抽象的な表現やコンセプトを重視している作家]のアートを意味する事が多いように思います。
似た言葉として【近代アート】がありますが、「XXXX年以前に生み出された作品は近代、それ以降は現代」という具体的な線引きはありません。
表現方法(具象・抽象)、時代など、様々な時系列があるため一概には言い切れませんが、一般的には作家が活躍した時代がいつかによって使い分けられています。
現代アートの具体的な作家名を挙げるなら、草間彌生、村上隆、奈良美智辺りが有名でしょう。他にも杉本博司、名和晃平、鴻池朋子、タカノ綾、横尾忠則、会田誠、森村泰昌、宮島達男、加藤泉・・・など、沢山居ます。最近では小松美羽が24時間テレビのTシャツ『チャリTシャツ』のデザイナーに選ばれたことで注目を浴びました。
現代アート作家はその中でも更に洋画家・日本画家・版画家などと区別されて使われていますが、同じ基準での分類ではないため、作家によっては「現代アート作家であり洋画家でもある」場合もあります。
現代アートの買取価格の評価方法
絵画の買取価格は[市場評価]に応じて決められています。市場評価とは需要と供給のバランスから導き出される流通価格のことです。株式市場をイメージいただくと分かりやすいと思いますが、欲しい人が多いほど評価は高まり、欲しい人が少ないほど評価は下がります。絵画のマーケットは株式市場ほど相場が動かず、数週間から数カ月単位でゆっくりと動いている印象です。作家によっては10年以上相場が変わらない場合もあります。
基本的には上記の通り相場動向を考慮して買取価格を決定しますが、相場が形成されるためには一定量の作品が市場に出回っていないといけません。
個展などで新作(まだ誰の手にも渡っていない作品)を購入したコレクターが作品を売却する事で市場に出ます。この流れを[二次流通]と呼び、一度人の手に渡った作品が一定数出回る事で安定した二次流通の市場が形成されます。
某グルメサイトの口コミでも、一定数の口コミ・評価が集まらないと星は付きません。それと同じような原理です。
現代アートの主要作家
現代アートを語る上で、オークションの落札金額は作家を評価する重要な指標のひとつではないでしょうか。アートの世界は美術史における立位置、作品の文脈、アーティストのキャラクター等、様々な面から評価されますが、どれも数字で語られる事は少ないです。そのため、オークションでの落札金額や販売価格などの『数字』から見ると現代アート作家のすごさが分かるかもしれません。知名度は勿論のことですが、数字でも結果を残している現代アーティストの中で、特に輝く日本人作家3人をご紹介いたします。草間彌生
国内で最も有名な現代アーティストは草間彌生ではないでしょうか。水玉を散りばめた南瓜(かぼちゃ)のモチーフなど、唯一無二のセルフプロデュースで圧倒的な知名度を誇ります。2019年には【無限の網 #4】という作品が、某オークションで796万ドルという金額で落札されたことも記憶に新しいです。草間彌生は芸術の中心地であるニューヨークで結果を残した現代アーティストです。『ハプニング』で一躍有名となりました。セントラルパークやブルックリン橋などで米国旗の焼却、全裸のモデルたちの体に水玉の模様を描きだす等、数多くのハプニングを残しました。草間彌生はハプニングを通じて「既成の性にまつわる道徳観」や「ベトナム戦争」に対していくつものメッセージを送ったと言われています。現在では草間が生み出した作品はグッズや有名アパレルブランドなどに採用され、アートに興味がない層にも浸透しています。また、2017年には東京都新宿区弁天町に「草間彌生美術館」が設立されました。オブジェや空間芸術などを中心に、草間彌生の真髄を見る事ができます。
奈良美智
2019年、奈良美智は日本人作家のオークション落札金額における最高額を記録しました。作品名は【ナイフ・ビハインド・バック】、落札金額はなんと2490万ドルでした。日本人作家が世界で評価される姿を見ると同じ日本人として誇らしく感じます。彼の作品のアイコンといえば、すこし厳しい目元が印象的な少女のようなキャラクターで、社会に対する怒りや葛藤などを感じさせます。しかしとても可愛らしく見える時もあり、鑑賞者によって感じ方が異なる作家かもしれません。国内では「青森県立美術館」に多くの作品が収蔵されています。オブジェや絵画などを体系的に見る事ができる希少な空間です。美術館の周辺環境ものどかで、時間を忘れさせてくれます。村上隆
世界的な現代アーティストであり、「Kaikai Kiki Gallery」のオーナーとしても有名です。SNSなどでの発信も積極的に行っているため、普段知る機会のほぼ無いアーティストの考えにも触れる事ができる、数少ない作家でしょう。漫画・フィギュア・アニメなどといったサブカルチャーを純粋芸術まで昇華させ、世界のアートシーンに新たな風を送り込みました。一見ただのイラストのように見えるサブカルチャーも村上隆の手にかかれば文脈(コンセプト)とクオリティが担保され、日本以上に厳しい世界で評価されています。彼は元々日本画を学んでいたため、平面的な構成や輪郭線といった日本画の特徴を作品の礎にしているのではないかと感じます。
少し前ですが、2008年に【マイ・ロンサム・カウボーイ】という作品が当時のアジア人作家最高額1516万ドルで落札されたのは日本の美術業界に衝撃を与えました。
現代アートの作品に安定した相場が無い場合
既に亡くなった巨匠や、現代アートの作家でも既に市場が成熟している作家(草間彌生など)は相場を参考に価格決定が出来ますが、新人から中堅作家の作品は未だ市場に多くの作品が出回っておらず、二次流通(セカンダリーマーケット)の市場が形成されていないため、相場を参考には出来ません。では、そのような場合はどのように価格決定をするのでしょうか?当社の場合はですが、ギャラリーでの発表価格や作家を取り巻く環境(受賞歴・所属ギャラリーなど)を総合的に判断し、買取価格を決定しています。これはあくまでも当社の方法であり、買取業者によって基準とするものは異なると思います。
これらの情報は実績が数字で残る相場とは異なり、市場動向を日々注目していないと得ることが出来ない情報です。当社では新しい作家も広くチェックすべく努めていますが、日々新しい作家が登場しているため、なかなか難しい所です。
投機的な対象の現代アート作家の評価の難しさ
相場が安定している物故作家(例外あり)と異なり、現代アート作家は相場の動きが激しい傾向にあります。相場の動きがあるところには、その差を利用して投機対象とする人間がマーケットに参加します。投機目的でアート作品を購入する方は、基本的に「作家が好き」という気持ちはなく、売買によって得られる利益を目的としてマーケットに参加します。純粋にその作家が好きで作品を購入したい方にとっては、作品を購入しづらくなるという悪影響もあります。こう聞くとネガティブな雰囲気になりますが、中にはこのような方達がいるからこそ注目され、お金が流れることにより市場価値が上がる作家作品もあります。
ただ、投機目的での購入ばかりが集中すると、確固たる根拠があり評価が上がっているわけではないため、作家によってはマネーゲームで作品を食い尽くされた後、あっという間に価値が落ちてしまう場合もあります。健全とは言い難いでしょう。
現代アートの絵画を高く売るコツ
現代アートを高く売るコツは【正しい売先選び】です。上で述べたように現代アートは良くも悪くも不安定な相場です。既に亡くなった方(アンディ・ウォーホルなど)や現存で結果を残している方(草間彌生など)は市場に出回る作品数も多いため、ある程度相場が形成されています。しかしながら、新人作家や若手作家に関しては作品数も多くなく、市場に出回っている量も少ないため、相場は安定していないことが殆どです。そうなると相場以外にも価値を見極める力が必要となり、オークションのデータのみで買取金額を判断している業者には取り扱いが難しいでしょう。しかしながら、インターネット等で得られる情報だけでは適切な業者かどうかの判断が難しいため、売却時には最低でも3~5社に見積依頼をする事をお薦めします。
また、買取業者だけではなく【オークション会社】、【委託販売】、【インターネットオークション】など売却するプラットフォームは多数あります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、売先に悩んでいる方はお気軽にご相談ください。
次に、現代アートを売る時によくいただく質問や、具体的にどのようなポイントが査定額に影響するかを紹介させていただきます。
売却する時期の判断
現代アートの査定依頼の際によくいただく質問のひとつです。結論、売りたいと思った時期や、売る必要に迫られた時期が適切なタイミングだと思います。英語圏では、作品を手放すタイミングはDeath(死)、Divorce(離婚)、Debt(借金)と言われ、頭文字を取って『3D』とも呼ばれたりします。日本では生前整理や遺品整理のタイミングで売却の相談をいただく事が多いですが、現代アートに関してはコレクションの入れ替えでご依頼いただく事も多い印象です。
このように売却するタイミングは人それぞれですが、現代アートも売却するタイミングによって金額が大きく異なる事は事実です。
例えば草間彌生の油絵は、2021年現在 数千万円~1憶円以上という価格帯で動いています。しかしながら、2000年前後には作品によって数十万円台で動いていました。
一方、日本の洋画や日本画の世界は現在厳しい状況に陥っています。バブル経済時(1980年代から1990年の頭)に数千万円や1億円以上で売買されていた作品が、現在は当時の10分の1以下で販売されているケースもあります。
このように売るタイミングというのは難しく、答えがない問題です。将来値上がりを信じて所有するのも良いですが、タイミング次第で大きく評価が下がる事もあると理解しておくべきでしょう。
鑑定士在籍
現代アートを高く買取するには【現代アートを理解できる鑑定士の在籍】が必要です。「現代アートの絵画を高く売るコツ」の中で、その業者が本当に現代アート買取に適しているかどうかはネット上の情報だけで判断できないため、複数社への見積依頼を提案させていただきました。現代アートを理解できる人が居るかどうかが買取金額に直結するため、見積依頼が高額買取への最短経路かもしれませんが、大事な作品を売るなら信頼できる人にお願いしたいのもコレクター心理でしょう。
私自身も少ないながら現代アートを集めているため、コレクターの方々の気持ちが分かります。そのため、気に入った作品に出合うとついつい高く評価してしまいます。このように現代アートを積極的に買取している業者の中には担当者自身もコレクターというケースもちらほら見受けられます。自身のコレクションに合う現代アートの買取業者と出会うと、他の業者に比べて高額査定が期待できるでしょう。
絵画の状態
現代アートを高く売るコツのひとつに【絵画の状態】があります。現代アートに限ったことではありませんが、作品にシミ、ワレ、カビ、破れ等のダメージがあると買取金額は下がります。作品のコンディションに関しては、基本的に減点方式で評価していきます。現代アートと言っても、制作されてから数十年経過している作品もあります。例えばアンディ・ウォーホルの初期のシルクスクリーン作品は制作されてから半世紀以上経過しています。
制作されてからの時間が長いほど作品にダメージが発生する確率が高くなり、保管状況によっては金額が付けられないほどボロボロになっている作品も見受けられます。特に現代アートはアクリルで作品を保護していないケースもあるため、洋画や日本画と比べてダメージの発生確率は上がります。
一度ダメージが発生した作品は修復するか、飾る予定が無ければ早急に手放す方が良いでしょう。
現代アートの買取は東京の絵画買取専門店 獏にご依頼ください
現代アート(美術)の買取価格は、その作家を取り巻く環境により大きく異なります。市場が安定している作家は買取時点の相場を参考に評価できますが、新人作家~中堅作家のように二次流通に作品が出回っていない作品は買取業者ごとに評価方法が分かれます。当社では二次流通の相場だけではなく、幅広い情報を考慮して買取金額をご提案させていただきます。是非、お気軽に当社「東京の絵画買取専門店『獏』」へご相談ください。