吉村誠司の
日本画・買取価格とポイント
1960年-現在に至る。
日本画家。福岡市に生まれる。1985年に東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻を卒業し、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程に進む。1990年に東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程満期修了。平山郁夫、福井爽人に師事した。1986年に第41回春の院展に「sai」で初入選、1987年には再興第72回院展に「生きる」で初入選し、早くから頭角をあらわす。1989年から中国敦煌莫高窟調査に参加し、以後2000年まで参加を続ける。1996年の再興第81回院展にて「白韻」で日本美術院賞・大観賞を受賞するも、その後脳腫瘍の診断がくだり入院、手術を受ける。復帰後の1998年の再興第83回院展の出品作「硝子を透して」で再び日本美術院賞・大観賞を受賞、現代日本画壇の旗手としてその名を知られるようになる。2000年に再興第85回院展出品作「水族館」で第6回足立美術館賞受賞。2000年に日本美術院同人に推挙。2007年に再興第92回院展出品作「雛祭り」で文部科学大臣賞を受賞。2010年に再興第95回院展出品作「祭壇(バリ島にて)」にて内閣総理大臣賞を受ける。2011年から共同通信社配信「随想」の挿絵を担当する。同年、再興第96回院展出品作「陽光」にて第17回足立美術館賞。2001年から東京藝術大学美術学部の助手をつとめ、2007年から准教授となり、2015年に東京藝術大学美術学部日本画科第三研究室教授に就任。
買取ポイント
吉村誠司の作風
吉村誠司の代表作は、病からの復帰後に大観賞を受賞した「硝子を透して」でしょう。本作は、淡い光を灯した夜のメリーゴーランドに大きく木馬と人の姿を重ね合わせた幻想的な作品です。はかない光で縁取られた遊園地の遊具の描写は、それまでの具象画の表現を一変させたと評価されています。モティーフの大きさは自由に変えられ、現実と夢が入り混じった夢幻の世界が広がります。日本画で使用される岩絵具を削り出すことで得られる独特の色彩表現は、古典を研究して身に着けた吉村誠司ならではの技法です。
光とともに飛び交う昆虫の姿を淡い色彩で描き出した1995年の「月明り」や、水面に落ちた桜の花びらを複雑な色調で描いた1996年の「サクラ」など、「硝子を透して」以前には、花鳥画に準ずるモティーフを画面内に反復させ、輪郭が滲むような繊細な線で描いていました。その後は、サーカスやピエロ、吊し雛や案山子など子どもの世界につながる遊戯的な主題を追求し、浮遊感のある構図で独自の幻想世界を作り出すことに成功しています。
ヨーロッパの国々、インド、中国、バリ島といった海外の情景を印象的な建造物とともに壮麗に描き出した風景画も多数発表しています。
吉村誠司の現在の評価と価値
吉村誠司の代名詞となる作品は、先にも取り上げた「硝子を透して」です。本作のタイトルは、モティーフを繊細な線描と淡い色彩で表現した吉村作品の本質につながるものと言えるでしょう。2011年には小学館から『硝子を透して: 吉村誠司作品集』を出版して好評を博しました。2018年から2019年に開催された個展でも展覧会名に「硝子を透して」を冠しています。そごう横浜店・神戸店・西武池袋本店・そごう千葉店を巡回した本展は、現代具象絵画の最高峰と称される吉村の繊細かつ独特な作風を広く伝えるものとなりました。
2000年に 第6回足立美術館賞を受賞した「水族館」、2011年の第17回足立美術館賞受賞作の「陽光」では、幻想的な空間に多様な種類の魚や鳥を自由に配置し、細部まで計算された吉村の独創的な世界観が詰め込まれています。幻想的でありながら緻密に描写された吉村作品には、鳥や魚、風景、人物などさまざまな題材が取り上げられますが、すべての作品に吉村ならではの独特の色彩表現が見られます。吉村が独自の色彩と繊細な線で描き出す夢幻世界は、現代日本画の具象画を牽引するものとして、揺るぎない評価を受けています。