はじめに
こんにちは、東京の美術品買取専門店獏 です。テレビでたまに「芸能一家」という言葉を耳にしますが、これは芸術業界にもあることです。今回はその「芸術一家」を取り上げてみたいと思います。
日本美術業界には芸術一家は多数います。日本画界では上村家(松園、松篁、淳之)が有名で上村三代などの呼ばれ方がされています。一方、洋画界では三岸家が最も認知度があるのではないでしょうか。現在でもギャラリーや百貨店などで取り扱われる人気作家です。
絵画・美術品の買取を専門に行っている立場から現在の市場評価などを中心に紹介させていただきます。
三岸節子を取り巻く人々について
日本を代表する女流作家の三岸節子(ミギシ セツコ)を中心に夫・三岸好太郎(コウタロウ)、息子・三岸黄太郎(コウタロウ)がいます。黄太郎の事は好太郎と区別するために「キタロウ」と呼ぶこともあります。また、節子と事実婚の関係があった菅野圭介(スガノケイスケ)も合わせて紹介させていただきます。
三岸家の市場評価について
冒頭で述べたように現在でも高評価です。特に三岸節子と三岸好太郎は市場評価もさることながら、日本の美術史でも重要な役割を果たしました。作家の名を冠する美術館が設立されているのが大きな理由でしょう。三岸節子は愛知県一宮市に、三岸好太郎は北海道札幌市にありますので、一度足を運んでいただきたいです。
では、作家別に「作風」と「市場価値」を紹介させていただきます。
『三岸節子(1905-1999)』
代表的なモチーフは花を描いた作品です。人気がある作家なので油絵作品ではなく版画作品も多数制作されましたが、基本的に花をモチーフにしたものばかりです。具象画ですが写実絵画とは全く異なる大胆な構図とマチエールが特徴的です。重厚で情熱的な作品からは生命の躍動感が溢れ出ています。
現在の市場価格は高く、キャンバスに油彩作品ですと100万円以上の買取価格になる事が多いです。
『三岸好太郎(1903-1934)』
北海道札幌出身の洋画家で、高校卒業後に上京しました。その2年後に春陽展で入選してから、31歳という若さで亡くなるまで駆け抜けた夭折の画家です。シュルレアリスム的でロマンチックな作風で期待された実績と、作品数の少なさから現在でも高い価格で流通しています。現在、市場に出回っている作品は具象風景を牧歌的に描かれている印象です。シュルレアリスム以前の具象作品でも数十万円~200万円前後の買取価格となります。
『三岸黄太郎(1930-2009)』
節子と好太郎のもとに生まれました。画家を両親にもつめぐり合わせかもしれませんが、黄太郎自身も画家を志して23歳の時に単身フランスへ留学します。翌年には母・節子が合流して、画題を求めてヨーロッパ各地を巡りました。帰国時期を挟みながら滞欧生活は20年間にも及び、フランス・ブルゴーニュ地方の小村ヴェロンにアトリエを構えて制作活動に勤しみました。ヨーロッパの大地からなる情緒的な作品は親しみやすさを感じます。
現在の市場評価は両親と比べると寂しい価格帯です。数万円~10万円前後の買取が多いです。
『菅野圭介(1909~ 1963)』
三岸節子と事実上の婚約関係にあったとされています。
東京都生まれで京都大学に進学するが中退し、絵の道へ進みました。独立美術協会を中心に活躍した作家です。
シンプルに構成された作風が特徴的で遠近法などを使用しない平面的な表現様式でした。
現在の買取金額は、数万円~10万円前後となります。
まとめ
親子や兄弟姉妹で芸術家という作家はたくさんいますが、全員が歴史に名を残すような高い評価を得ている所は少ないでしょう。陶芸の世界では一族で名声を得ている家もありますが、絵画の世界では珍しいです。産地や歴史に縛られない自由さがあるのが大きな理由かもしれません。次の機会では三岸家と同じように著名作家を輩出している「堂本家」について書いてみたいと思います。