はじめに
こんにちは、東京の絵画買取専門店 獏 の小林です。東京都品川区にある「原美術館」に行ってきました。
これまで行ったことがありませんでしたが、この度展示内容が<加藤泉 LIKE A ROLLING SNOWBALL>であることを知り、ついに初訪問です。
1938年に東京・品川に建てられた原邦造氏の邸宅を基に、1979年 原美術館として開館。
昨年、2020年12月末を以て40年の歴史に幕を閉じることが発表されています。建物の老朽化や古い建築物故バリアフリー等への対応が難しいということが理由として発表されていました。
以前から原美術館という名前は知っていたものの、なかなか行くタイミングがありませんでした。閉館するというニュースを聞いてから是非閉館までに訪れたいと思っていたところ、個人的に好きである加藤泉の展示があるということで、期待をしつつの訪問でした。
原美術館について
JR品川駅の高輪口から大井町方面に徒歩15分~20分ほど。公共交通機関でも行きやすい位置にあります。伊藤博文旧邸宅地を右手に見つつ、緩やかな上り坂を進むと閑静な住宅街が広がります。原美術館は大きな看板も無く急に目の前に現れました。
原美術館は県や市が運営している美術館とは一線を画する建物でした。
通常の美術館は作品を展示することを目的として設計されていますが、原美術館は元々居住用の建物であるため、独特の雰囲気があります。通常の美術館と比べるとコンパクトな作りですが、開放感があり、ゆっくり鑑賞するにはちょうど良い大きさでした。
庭にも多数の作品が展示されていました。中でもリーウーファンやソル・ルウィットなどの巨匠作家の造形物があったことには驚きました。また、それを囲むようにカフェが設置されており、素敵な空間を提供してくれています。
数ある美術館の中でも作品を鑑賞しながら食事をとることができる所は少ないのではないでしょうか。
建物は3階建てで、二階の一番奥には通称<奈良部屋>と呼ばれる、過去のイベントで奈良美智(ナラ ヨシトモ)自身が作品制作のために使用していた部屋がそのまま残してありました。
4~6畳ほどの狭い空間一面に、奈良美智作品が多く展示されており圧巻でした。
このような企画が出来たのも、原美術館の現代美術への貢献の賜物かなと感じます。
加藤泉について
加藤泉は2015年に熊本現代美術館で見てからファンになりました。絵画・美術品買取業界に身を置いているためか、取り扱う作品は物故作家(亡くなった作家)や、現代の巨匠である程度市場に作品が出回っている作家に限られており、加藤泉のような現代作家を取り扱う機会は少ないのです。
しかし、いつか取り扱う機会のためにと趣味と実益を兼ねてじっくりと鑑賞させていただきました。
以前熊本現代美術館で見た時の感想は、
原始美術を彷彿とさせる唯一無二の作品であり、見た人の脳裏から離れず、記憶に残るのではないか
というものでした。
中世から近代までは、芸術とは<美しさ>と<教養>がすべてでしたが、1900年以降からはコンセプチュアルアートと総称されるように<コンセプト>が重要視されています。
コンセプトとは、作品に意味を持たせ、表面上の見た目や宗教に関連した知識とは離れ、この世にまだ存在しない新しい考えを示すものだと私は考えます。
※中世の美術鑑賞は貴族の遊びで、絵画の中に含まれている宗教的意味合いを語り合うことが教養とされていたため
中にはアクションペインティングやダダイズムのように、人間の意図を排除することを目指した芸術運動もありますので、非常に難解になってきているのも事実です。
作品におけるコンセプトとは非常に難しく、見る人に伝わらなさすぎても美術業界に浸透しませんし、逆に分かり易すぎても相手にされない場合があります。
そういった側面からもう一度加藤泉の作品を見ていきます。
まずは[物理的な特徴]です。
今回展示されていた作品の大半は、2018〜2019年の間に作られたものでした。
キャンバス作品は2つのキャンバスを繋げて描かれていて、紙作品は2枚の紙上下を紐で繋がれていました。
造形物は石や皮などの異素材を組み合わせて作られていました。異なる大きさの石に様々な表情が描かれた作品も印象的でした。
次は[観念的な側面]から見ていきましょう。
表現されている対象物はどれも<人物のような生き物>でした。
その人物には男性にも女性にも見える特徴がありました。また、造形作品の一部には頭部に「子ども」とも見て取れる小さな人物の形をした物体が付いており、まるで一人の人物から生命を生み出すことが出来る機能があるのではないか、と不思議なことを感じさせられました。
そのようなことから今回のテーマは<生命><命の連鎖>か?と、勝手に推測させていただきます。
印象的な出来事
観覧中に印象的だったのが、アジア系の観光客二人組が一つ一つの作品の前で熱心に語り合ってたことです。どこの言葉か分からなかったのですが、異なる国籍の方が加藤泉の作品を見てどのように感じたのかが気になりました。また、日本語をルーツに持たない人に対しても作品のみで興味を持たせ、更に語ってもらうことさえできる芸術作品の国境を超える自由さを嬉しく思いました。
原美術館も閉館が決まり、加藤泉展も終盤に差し掛かってきました。
まだまだお散歩しやすい気候ですので、感性を刺激するため足を運んでみてはいかがでしょうか。
原美術館での次の展示会は?
1月からは<森村泰昌 エゴオブスクラ東京2020さまよえるニッポンの私>展があります。「セルフポートレート(自画像)」という表現方法を取る作家です。
森村泰昌のセルフポートレートでは、自分自身に有名人などのメイクを施し、その自分自身を写真におさめる というものです。
個人的にシンディー・シャーマンが好きで、その流れから森村泰昌も好きになりました。
加藤泉と同じく、絵画・美術品の買取業務では取り扱う機会が少ない作家です。
公的な場所でじっくり鑑賞できるのは初めてですので、今後楽しみな展覧会のひとつとなりそうです。